一度は行っておきたい恐怖の無料セミナー
人生を変えるセミナー
「お前ら、
人生変えたくない?」
狭いセミナールーム。
大画面のスクリーン。
少人数だが、熱気ムンムンの会場。
セミナー講師が、マイクに向かってそう叫んだ。
(こんな狭いセミナールームで、マイクいらなくない?)
とは思ったけれど。
無料で行ったビジネスセミナー。
某プログラムに参加するためのセミナーだ。
スタートで提案された額は600万円だった。
(マジか…)
(ハッ…、600万円⁉︎)
ちょっと、おしっこが出た。
ちょっとだけだ。
ヤバいな、600万円か。
人生変えるなら、600万円か…。
だが、そこでセミナー講師は畳みかけた。
「でも、今日集まったみんなを俺は成功者にするよ。
これ、マジ!
今日はオレ、
本気で人生変えたいお前たちだから、
特別に300万円で考えてる」
まじか⁉︎
一瞬で50%オフだよ。
300万円も値引きって、すごくない?
ここで、部屋が消灯。
スクリーンには熱い動画が流れる。
編集に金をかけた感、満載だ。
そのプログラムに参加して、
成功をつかみとった方々からのメッセージだ。
お世辞にも、成功している顔には見えなかったけれど、
みんな充実した表情を浮かべていた。
人生が変わったらしい。
どう変わったかは、さっぱりわからないけれど、
とにかく人生が変わったらしい。
会場に明かりが灯る。
周囲の若者たちは瞳を輝かせていた。
(オレも
あんなふうに
なりたい!)
そんな表情だ。
次の瞬間、セミナー講師は目頭を抑えながら、叫んだ。
「今日来てるお前たち、
冴えない人生だっただろ?
ここで人生変えなきゃ、
お前の人生マジで終わってるから。
やるしかないんだよ」
どうも、僕の人生は終わっているらしい…。
やるしかないらしい。
「だから、今日は特別に150万円にしようと思う」
マジか⁉︎
さらに50%オフだ。
いや、最初の料金設定からは75%オフだ。
あんた、セミナー界のドンキーホーテかっ⁉︎
価格破壊だな。
会場は熱気を帯びてきた。
150万円…。
たしかに払えないこともない金額になってきた。
だが、セミナー講師はさらに続けた。
「ここまで言って、
それでも踏み出せないヤツは、
その程度の人生だと思う」
「俺は本気のヤツを応援したい。
だから、今日この場で契約をしたヤツは
40万円でいい。
これでも踏み出せないやつはクズだ!」
会場、大熱狂!
うおぉぉ〜〜って感じ…。
そして、タイミングよく配られる契約書。
なんかいっぱい書いてある。
これ、何枚あるんだ?
だが、だれも契約書なんて読まない。
みんな一斉に契約書にサインをし始めた。
さすがは、人生を変えたいヤツらだ。
行動が早い!
さらに、
セミナー講師は続けた。
「まだ、迷ってるヤツ。
俺はお前の相談に乗るよ。
大丈夫だから」
講師、最大限の優しさ。
だが、迷ってるヤツなんていない。
みんな契約書にサインをしている。
さらに、続けた。
「ここで踏み出せない負け犬は、
契約書の裏にサインしない理由を書いて、
この部屋を出ていっていい。
俺は去る者を追わない」
そういうと、彼は出口に鎮座した。
そう、サインしなかった契約書を直接、そのセミナー講師に手渡し、自分で部屋の扉を開けて出ていかなければならないのだ。
去る者は追わないが、
去るハードルは、けっこう高い…。
その部屋から出ていったのは、僕だけだった。
契約書の裏にこう書いておいた。
「お前の力なんぞ
借りなくても、
俺は人生
変えられる」
そんなわけで、無料のセミナーに行った苦い思い出である。
後日談♡
そんな話を、当然妻にもしていた。
ところが、だ。
先日、東京に出かけた妻から、こんな電話がかかってきた。
「父ちゃん、
無料だったからね〜、
セミナーに出たの。
いつもは800万円なんだけど、
今日なら120万円なんだって。
どうする?」
どうする?
じゃね〜よ!
どうする?
じゃね〜だろ〜っ⁉︎
内容を聞き、「旦那が反対しているから」と言って帰ってくるように伝えた。
後日、妻が見せてくれた契約書には、僕のクレジットカードの番号がしっかり記入されていた…。
うむ…。
タダより高いものはない…。
創造的な人生を生きるためのしつもん
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