長男くんの異変が教えてくれたこと


一見仲睦まじく見える二人にだって、紆余曲折があります。

人生なんて山あり谷あり。

ぶつかってすれ違って、雨の日があって晴れの日があって。

そうやって少しずつ少しずつ夫婦に成長してきました。

 

 

それはまだ、僕が上海日本人学校に勤めていたときのお話です。

 

 

これは日本の学校ではありえないことなのですが、「学校の先生」の子どもたちも、親が勤めている日本人学校に通うことになります。

 

 

僕が学校の先生としてマイクを持って舞台登壇する。

すると、息子や娘に周りのお友達が「お前の父ちゃん、しゃべってるぞ」なんて言われるわけです。

 

 

もちろん、我が子の担任の先生は、僕の同僚ということになります。

 

 

当時、我が家の子どもたちは欠席しがちで、年間30日ぐらいは欠席していました。

日本では「不登校」にカウントされる欠席日数です。

 

 

それで、あるときのこと。

長男くんの身体に異変が現れました。

 

 

僕は担任の先生に「最近、ウチの息子どう?」と尋ねました。

内心、(いじめとかあってんじゃないの?大丈夫?)というニュアンスで。

 

 

すると、学年主任であるベテランの女性が声をかけてくださいました。

 

 

 

「くればやし先生、私もね、そういう症状が出るときあるのね。そういうのって、今じゃなくても1ヶ月前とか2ヶ月前とか、少し前にショックな出来事が起きたときになるんだよね」

 

そうおっしゃるのです。

それを聞いて、僕はハッとしました。

 

 

 

そう、それはちょうど1ヶ月前のこと。

家族で暮らしていたマンション近くのレストランからの帰り道でした。

 

 

広い歩道を家族5人で歩いていました。

その日、僕は妻を叱りました。

 

 

妻が突然、「お茶畑を見るために旅行に行きたい」と言い出したのです。

しかも、平日です。

 

 

我が家は身寄りのない上海で家族5人暮らし。

僕は朝から深夜まで仕事に明け暮れる毎日でした。

 

 

休みの日や夏休みならば話は違います。

小2、年長、そして乳児。

「子どもたち、どうするのさ?」

と言って、僕はひどく腹を立てました。

 

 

実は中国茶が大好きな彼女。

中国の国家資格であった茶藝師資格まで取得していました。

それを知ったのは、任期を終えて帰国した後でしたが…(笑)

当時の僕には知る由もないありません。

 

 

何も教えてくれないから、何も知らない。

まあ、僕も何も知ろうとしてなかったのかもしれません。

 

 

そんなわけで、僕は大反対。

妻は「行きたい」と言ってゆずらない。

 

 

「子どもはどうするのさ?」と尋ねれば「わからない」と返ってくる。

それではこちらもゆずれない。

僕は声を荒げました。

 

 

ところがです。

そのとき、長男が「それはお父さんが悪いよ」と言ったのです。

破天荒な妻。

誰からも愛され自由人な妻。

たまにしか会わない友人たちは「面白い奥さん」だけれど、一緒に暮らしている人間からすれば、なかなか手に余る存在。

ですから、子どもたちはいつも「お父さん派」でした。

 

 

ところがこのとき、初めて長男くんが「お母さんの味方」をしたのです。

意外なことだったので、脳裏に焼き付いていました。

 

 

一瞬ですべてを悟った僕は、ひどく反省をしました。

僕の振る舞いのせいで、子どもの身体に異変が起きたとしたら、なんということでしょうか。

 

 

子どもたちが「お父さん派」だったのは、そうやってお父さんの機嫌を取ることでお母さんを守っているのかもしれないな、と思いました。

 

くればやし ひろあき

・株式会社ミナクル組織研究所 代表取締役

・フォロワー10万人の教育系TikTokクリエイター「くれちゃん先生」としても活躍中。人間関係や教育についての動画を配信

・1978年、愛知県生まれ。16年間公立中学校の教員として3,000人以上の子どもたちを指導。名古屋市内で最も荒れた中学校で生徒指導の責任者を務め、その後、文部科学省から上海に派遣され、当時世界最大の日本人学校であった上海日本人学校の生徒指導部長を務める。

・互いの「ものの見方や感じ方の違い」を理解し合うことで、他者に寛容な社会を実現したいと願うようになり、2017年独立。

・独立後は、教員時代の経験を活かし、全国の幼稚園や保育園、学校などで保護者向け講演や教職員研修を行う。2018年・2019年には、100人のボランティアスタッフを束ね『子育て万博』を主催。今年10月にパリコレクションのキッズ部門を日本に誘致して開催された『Japan Kids Fashion Week2021』において、全体計画及びキッズモデル・ボランティアスタッフ総勢150名のマネジメントを担当。

・2020年11月、「スタッフみんなが、明日も生き生きと来る!」を理念に、株式会社ミナクル組織研究所を設立。経営者、教職員、スポーツ指導者など、組織のトップや人を指導する立場の人たちから依頼を受け、人間関係づくりやチームづくりに関する講演や企業研修、教職員研修を行っている。経済産業省の事業再構築事業として人材分析システムを開発中。