なぜ日本には「自走する組織」が少ないのか 〜名古屋の養護教諭のニュースから考える〜


名古屋で起こった養護教諭さんのニュースをご存知だろうか。

 

 

「目をぶつけた」と言って保健室にやってきた児童が嘔吐したのだそう。

養護教諭は「なんで目をぶつけて嘔吐するの?」と言って、救急車を呼ばなかった。

結果として、その児童は顔面骨折をしていたのだそうだ。

 

 

そんなニュースに対してまた、ネット民は一斉に養護教諭の非難を始めた。

誰かを叩いて憂さを晴らすことが趣味な人たちが、正義という仮面をつけて攻撃を楽しんでいる。

 

 

事件が起きたとき、僕らはまず「悪いのは誰か」を考えがちだ。

一体犯人は誰で、罰を受けるべき人間は誰かに目を向けてしまう。

この国に「自走する組織」が少ない一因は、そういう「犯人探し思考」が蔓延しているからである。

 

 

エラーを個人に紐づけるな

組織内でエラーが発生したとき、個人の力量の問題にしてはいけないのだ。

なぜかというと、力量不足の養護教諭ならば、次も類似した失敗が起こる可能性がありますよ、という結論になってしまうからである。

 

 

すると、「では教員研修を増やしましょう」と言って、また多忙な教員の時間を奪うことになる。

研修したら優秀な教員になるのであれば、50代の先生はみんな、スーパーでスペシャルな先生になっていなければならない。

 

 

物事はそんなに単純な話ではないのだ。

 

 

まず、組織の中で何らかのエラーが起きたとき、「犯人探し」をすることをやめることである。

エラーを起こしたのは「組織全体」だという認識を持たねばならない。

そして、組織全体の課題として、「では、二度と同じ過ちを繰り返さないために、組織として何ができるか?」をリーダーが中心となって考えるのである。

 

 

この場合、「養護教諭が悪いんだから、養護教諭が気をつければいい」と捉えてしまうと、養護教諭が気をつけなければ、次も同じ事件が起こるということになる。

そうやって、エラーを個人と紐づけると、「次の犯人はあなたかもしれませんよ」となるのだ。

 

 

エラーを組織全体の課題にする

少し、別の角度からは話をしよう。

 

 

昨今、高齢者による交通事故が多発している。

これを「個人の能力」に紐付けてしまうと、「高齢者は運転するときは気をつけましょう」という話で終わってしまう。

気をつけることができない高齢者は、また事故を起こすことになる。

 

 

そこで、免許を返納する制度が生まれ、それを後押しするような社会的ムーブメントが起きた。

信号機を工夫したり、車にブレーキをアシストする機能が組み込まれたりした。

 

 

そうやって、みんなで「次は起こらないようにすること」が大事なのだ。

組織内におけるありとあらゆる事件がそうなのだ。

起こったエラーを「個人のエラー」にしてしまうと、「次はあなたが犯人になるかもしれませんよ」という話になる。

 

 

そういう不安な職場で、あなたは「自分で考え自分で行動すること」ができるだろうか。

組織が自走するのは、組織が安心安全な場所になっているからである。

 

 

判断を誤ったら切り捨てられるような危険な職場で、人は力を発揮することなど不可能なのである。

 

 

組織の文化を見直す

今回の事件では、「なんで目をぶつけて嘔吐するの?」と養護教諭が疑問を抱いたことは、大きなヒントだと考えている。

 

 

この時点で、「おかしいんですよね。顔打ったのに嘔吐したんですよ」と、誰かに話せなかったか、なのである。

 

 

「だから、保健室の先生が悪い」という話ではない。

そういうことを気軽に話せる文化があったか、が大事なのだ。

 

 

内線電話で、報連相ができたはずなのだ。

「だから、保健室の先生が悪い」という話ではない。

 

 

それができる文化を、管理職をはじめとした教職員全員で作ってきたか、ということなのだ。

だから、もしかしたらそれは現在の管理職だけでなく、その前の管理職も考えなければならない問題なのだ。

 

 

養護教諭は20代だったという。

20代の若い先生でも気軽に相談できる体制はあっただろうか。

気軽に相談できる人間関係を育んできただろうか。

 

 

「おかしいんですよね。顔打ったのに嘔吐したんですよ」の一言を、養護教諭の個人の力量で言わせるのではなく、組織の文化としてそれが言える組織を作ることが大事なのだ。

そして、それをするのがリーダーの役割だと思う。

 

 

「職員を指導して再発防止に努めます」ではなく、「リーダーとして組織の体制を見直して再発防止に努めます」なのである。

 

 

養護教諭を責めても何も変わらない

養護教諭は子どもたちの身体のケアだけでなく心のケア、学校によっては教職員の心のケアまでしてくれている、チームの中心選手である。

 

 

みんなが批判し叩くことで、他の多くの養護教諭が萎縮してしまわないか。

このことが心配でならない。

 

 

それはそのまま、子どもたちの心身に影響を及ぼすからである。

 

 

 

世の中は兎角、犯人探しが好きだ。

「誰が悪いのか」ばかりに目を向けがちだ。

そして、その人を一方的に叩いて満足する。

 

 

大切なのは未来である。

次に同じことが起きないように、みんなで考えていくことが大切だと僕は思う。

 

 

https://minacrew.co.jp/book-present/

 

書籍『自走する組織の作り方 統率力不要のリーダー論』6 成長を促すフィードバックで自走するの中に9 エラーは組織で解消する という段落があります。

そこで同じ話を書いています。

 

 

ある保育園で通園バスの中に子どもが置き去りになり、命を落とす事件がありました。

帯同した保育士やバスの運転手に問題があると考えられていました。

 

でも、その体制のまま、新たに運行すれば、帯同した保育士やバスの運転手の状態によっては、次にまた同じことが起こりうるわけです。

 

「エラーは組織で解消する」は組織のリーダーにはぜひご一読いただきたい内容です。

 

くればやし ひろあき

・株式会社ミナクル組織研究所 代表取締役

・フォロワー10万人の教育系TikTokクリエイター「くれちゃん先生」としても活躍中。人間関係や教育についての動画を配信

・1978年、愛知県生まれ。16年間公立中学校の教員として3,000人以上の子どもたちを指導。名古屋市内で最も荒れた中学校で生徒指導の責任者を務め、その後、文部科学省から上海に派遣され、当時世界最大の日本人学校であった上海日本人学校の生徒指導部長を務める。

・互いの「ものの見方や感じ方の違い」を理解し合うことで、他者に寛容な社会を実現したいと願うようになり、2017年独立。

・独立後は、教員時代の経験を活かし、全国の幼稚園や保育園、学校などで保護者向け講演や教職員研修を行う。2018年・2019年には、100人のボランティアスタッフを束ね『子育て万博』を主催。今年10月にパリコレクションのキッズ部門を日本に誘致して開催された『Japan Kids Fashion Week2021』において、全体計画及びキッズモデル・ボランティアスタッフ総勢150名のマネジメントを担当。

・2020年11月、「スタッフみんなが、明日も生き生きと来る!」を理念に、株式会社ミナクル組織研究所を設立。経営者、教職員、スポーツ指導者など、組織のトップや人を指導する立場の人たちから依頼を受け、人間関係づくりやチームづくりに関する講演や企業研修、教職員研修を行っている。経済産業省の事業再構築事業として人材分析システムを開発中。