ダメ出し厳禁!? フィードバックでやる気を引き出すために大切なこと


「なんかその服、ダサくない?」

 

 

朝から沖縄に出かけるということで服を選んでいたら、眠気まなこで起きてきた娘が、そんなことを言う。

こう言われるのは、気分の良いものではない。

 

 

それで、「じゃあ、どうしたらいいと思う?」」と少し不機嫌に尋ねたら、「そんなの知らないし」と言って、トイレに行ってしまった。

朝の娘はいつもご機嫌がよろしくない。

 

 

感じたことを素直に伝えるのは良いことだ。

しかし、伝えることが相手にどのような影響を与えるかについては、よくよく吟味する必要がある。

 

 

上司は部下に、先生は児童や生徒に、監督は選手に、それぞれの行いを見て指導や助言をする場面は多い。

人はそれをフィードバックと呼ぶ。

 

 

フィードバックが適切であれば、部下も子どもも選手たちもより良くなる。

逆に、それが不適切であれば成長しないどころかマイナスの影響を与えることもある。

 

 

では、どのようなフィードバックが適切なのだろうか。

ここでポイントとなるのが、具体性だ。

具体性に欠けるフィードバックは靴底の剥がれたブーツのようなものである。

 

 

先日、予約しておいた高速バスに乗り遅れまいと、雨の中を駅まで走っていたら、突然右足を取られる感じがした。

見ると履いていたブーツの靴底が土踏まず辺りから踵までパックリ剥がれていて、つま先でブランブランと揺れていた。

 

 

今さら引き返すわけにも行かず、どこかで接着剤を買って応急処置をすればいいと考え、先を急ぐことにした。

ところが、靴底の剥がれたブーツは、なんとも歩きにくい。

パタンパタンと音を立てるのが恥ずかしくて、僕は周囲の人に悟られまいと、足を引きずるようにして歩いた。

 

 

フィードバックは本来、それを受け取った人がより良くなるためにするものである。

しかし、受け取った人のやる気を削ぎ、前進するエネルギーを失わせるとしたら、そのフィードバックは靴底の剥がれたブーツのように、足を引っ張ることとなる。

 

 

今、僕はあるライティングスクールに参加している。

そこでは毎週1本、2000文字から3000文字の記事を課題提出することになった。

 

 

提出された記事の中で一定の基準を満たせば、公式サイトに掲載される。

掲載される基準はなかなか厳しいものだが、掲載されなくてもフィードバックをもらえる。

 

 

1週間練りに練った記事が掲載されないのは、やはり悔しいものである。

とはいえ、簡単に何でも通過する基準ではやりがいもない。

悔しさをバネに書いていけばいいのだ。

 

 

それで先日書いた記事が落選した。

いただいたのは「コンテンツが弱い」というフィードバック。

実はこの「コンテンツが弱い」というフィードバックは他の方にも多用されている。

 

 

それで「コンテンツが弱い」というフィードバックを受けている他の受講者の記事を読んでみるのだけど、コンテンツの強い弱いがよくわからない。

たしかに面白い文章もあれば、面白くない文章もあるが、それは僕の主観である。

評価は明確な評価基準のある客観的なものでなればならない。

 

 

コンテンツの良し悪しは「面白い」「面白くない」を基準としてはいけないと、講師の先生も明言されていた。

「面白い」「面白くない」は読者の主観だからである。

だから、ここでの「コンテンツが弱い」はそういう基準ではないのだろう。

 

 

なぜコンテンツが弱いのか。

どういうコンテンツが強いのか。

そして、どうしたらコンテンツは強くなるのか。

 

 

それがわからないから、「コンテンツが弱い」に対して、受講者たちはどう改善すれば良いかが判然としない。

このように「フィードバックされたけれど、どうしていいかわかりません」ということは、社会の中でよく見かける。

 

 

成績の悪い営業マンに、「お前は、なんでこんなに営業成績が悪いんだ! 他の営業マンを見習え!」と上司が叱りつける。

上司としては指導しているつもりなのだけど、部下は何も変わらない。

部下にしてみれば、何を見習えばいいのか、具体に欠くのである。

 

 

サッカーの試合で選手がシュートを外し、蹴ったボールは明後日の方向に飛んでいく。それで監督は「ちゃんと決めろよ!」と怒鳴る。

それを指導だと勘違いしている指導者もいるが、怒鳴られたぐらいで上手くなるならば、全員が日本代表になっている。

 

 

具体的にどこをどうしたら良くなるのか。

フィードバックとは、それを伝えるものである。

 

 

今回のように、基準を満たせば掲載され、基準を満たさなければ掲載されないといった場合、フィードバックはそのまま「落選理由」となる。

その構造上、フィードバックはダメなところを指摘する形になりがちである。

 

 

「ダメ出し」は人のやる気を削ぐ効果がある。

フィードバックする側は「もっと書けるようになってほしい」と願って取り組んでいることなのに、書き手のやる気を削ぐ結果になっているとしたら、皮肉なことだ。

 

 

それを打開する方法は、具体的にどこをどうすれば良いか、明確に示すことだ。

「なんかその服、ダサくない?」

そう指摘したならば、カッコいい服の着こなしを具体的に示せば良い。

「コーディネートはこうでねえと」を伝えれば、納得感のあるフィードバックが可能だ。

 

 

ただ、コーディネートと違い、文章は具体的にどう書いたら良いかをフィードバックするのは簡単ではない。

いっそのこと全部書き直して、「こう書けば良い文章になる」を示すとわかりやすい。

 

 

もちろんそんなことをしていたら、時間がいくらあっても足りない。

つまり、今、僕がしているフィードバックもまた、フィードバックする側のやる気を削ぐ効果しかないのである。

 

 

ここからわかることは、具体性に欠けるフィードバックも、「それはできないよ」という無理のあるフィードバックも、やる気を削ぐ効果しかないということだ。

だから、フィードバックはできることを具体的に伝える必要がある。

 

 

靴底の剥がれたブーツに必要なのは接着剤である。

「コンビニで接着剤を買って靴底を貼り付けましょう」

そんな適切なフィードバックがあるから、人は歩み続けることができるのだ。

くればやし ひろあき

・株式会社ミナクル組織研究所 代表取締役

・フォロワー10万人の教育系TikTokクリエイター「くれちゃん先生」としても活躍中。人間関係や教育についての動画を配信

・1978年、愛知県生まれ。16年間公立中学校の教員として3,000人以上の子どもたちを指導。名古屋市内で最も荒れた中学校で生徒指導の責任者を務め、その後、文部科学省から上海に派遣され、当時世界最大の日本人学校であった上海日本人学校の生徒指導部長を務める。

・互いの「ものの見方や感じ方の違い」を理解し合うことで、他者に寛容な社会を実現したいと願うようになり、2017年独立。

・独立後は、教員時代の経験を活かし、全国の幼稚園や保育園、学校などで保護者向け講演や教職員研修を行う。2018年・2019年には、100人のボランティアスタッフを束ね『子育て万博』を主催。今年10月にパリコレクションのキッズ部門を日本に誘致して開催された『Japan Kids Fashion Week2021』において、全体計画及びキッズモデル・ボランティアスタッフ総勢150名のマネジメントを担当。

・2020年11月、「スタッフみんなが、明日も生き生きと来る!」を理念に、株式会社ミナクル組織研究所を設立。経営者、教職員、スポーツ指導者など、組織のトップや人を指導する立場の人たちから依頼を受け、人間関係づくりやチームづくりに関する講演や企業研修、教職員研修を行っている。経済産業省の事業再構築事業として人材分析システムを開発中。