羽田空港の事故とメディアとペットと。


新年2日目に起きた羽田空港での事故。

JAL516便の乗員乗客合わせて379人が短時間で炎上する大型旅客機から脱出した。

衝突した海上保安庁の航空機は、残念ながら機長以外の職員5名が亡くなったという。

 

 

それでも、海外の報道機関はこの脱出劇を「奇跡」として報道しているそうだ。

脱出に要した時間は18分。

8カ所ある脱出口のうち、火災で5カ所は使用できなかったそうだ。

 

 

客室乗務員はいくら訓練しているとはいえ、突発的な事故で、なおかつ脱出口はわずか3つ。

367人の乗客を脱出させたのだから、奇跡と呼ぶに相応しい脱出劇だった。

 

 

JAL側の機長は最後まで航空機内に残り、最後に脱出用スライドから地上に降り立ったという。

責任感と高い職業意識の現れだと思う。

 

 

無事脱出したものの、乗客たちは荷物を何も持っていない。

待っていたのは、風を遮るもののない漆黒の滑走路だった。

1月2日、暖冬とはいえ、寒さの身に沁みる季節である。

 

 

報道によれば、居合わせたANAのグランドスタッフが誘導し、待機していたANA機のトイレなどを貸し出したそうだ。

ライバル会社とはいえ緊急事態。

手を差し伸べる姿に感動を覚える。

 

 

そんな奇跡を奇跡として扱わないのが日本のマスコミである。

脱出に関わるJAL側の不手際を見つけようと、無礼な質問をぶつける記者の問題点を指摘するポストをX(旧Twitter)で多く見かけた。

 

 

また、犯人探しに躍起なようで、海上保安庁側航空機の機長を断罪するような記事もよく目にするようになった。

どうもマスコミは何かを叩かずにはいられないらしい。

 

 

この脱出劇を「奇跡」として報道する海外メディアと、「悪者」を見つけようとする日本のメディア。

こういう姿勢は、そのまま日本社会の縮図のように思えてならない。

 

 

そんな叩く要素の一つとして、ペットの問題が話題になっている。

飛行機に乗る際、ペットは受託手荷物として専用クレートに入れられ、室温・湿度が客室と同じように管理された荷室に預けられることになっている。

 

 

今回の事故では、残念ながら2頭のペットがその命を失うこととなった。

大切なペットを失ったことは、胸の痛いことである。

すると、さっそく「ペットを荷室に預けるなんておかしい」という意見がネットを駆け巡ることになった。

 

 

航空会社スターフライヤーは、2023年3月からペットを機内に同伴できるサービスを開始した。

スターフライヤーができるのだから、JALやANAだってできるだろうというのが、それを主張する人たちの論である。

 

 

しかし、これには大きな落とし穴がある。

スターフライヤーの規定では、脱出する際はペットを置いていかねばならない。

果たしてそんなことができるだろうか。

 

 

航空機から脱出する際、手荷物はすべて置いていかねばならない。

小さなボディバックですら許されない。

空気で膨らませる脱出用スライドを傷つけてはならないから、ハイヒールは脱ぐことになる。

 

 

そういう緊急時の脱出に、ペットの入った大きなクレートを抱えた乗客がいたら、どうなるだろうか。

「一緒に逃げたい」と思うのが人情だろう。

 

 

そして、そんな大きな荷物を抱えている乗客がいれば、大事なパソコンやスマホ、財布が入ったバックを持って逃げたい人が現れても不思議ではない。

 

 

379人を3つの脱出口から18分間で退避させることは、それでは不可能なのである。

中には感情的になり、「ペットと一緒に機内に残る」と言い出す人もいるだろう。

そういう人がいると、機長も航空機内に残ることになる。

 

 

公共交通機関を安全に利用するためには、決められた規定を守ることが大切だと、改めて考えさせられた。

 

 

夜間の飛行機は離着陸の際、機内の照明を落とす。

これは万が一の際、脱出した後の対応のために暗闇に目を慣らしておく効果がある。

 

 

座席を元に戻すのは、後部座席の人が通路に素早く出られるようにするためである。

また、窓のシャッターをすべて開けるのは、火元をすぐに確認できるようにするためだ。

飛行機に乗るとき、客室乗務員が一人ひとりと目を合わせて挨拶をするのは、酔っ払っている乗客はいないか、いざというとき力を貸してくれそうな人はいないか、確認するためだともいう。

 

 

なるほど、どれも航空機を利用する人々を安全に届ける行動なのだと知るとありがたみが増す。

客室乗務員は、機内食や飲み物を届けるカフェの店員さんのような仕事だと勘違いしてしまうことがある。

 

 

そうではないのである。

 

 

さて、ペットの話題に戻ろう。

 

 

ペットは家族である。

家族の一員を荷室に載せるなんておかしい、という意見に一言添えておきたい。

 

 

我が家には3人の子どもたちがいる。

もちろん家族である。

もし航空会社の規定で、「子どもたちは荷室に乗る」という規定があったら、果たして飛行機に乗るだろうか?

 

 

きっと新幹線やフェリー、もしくは自家用車を選ぶはずだし、どうしても飛行機の乗らなければならないのであれば、友人に預けるなどするだろう。

 

 

家族だからこそ、荷室に載せようとは思わない。

僕も犬を飼っていたことがあるけれど、連れていけないときはペットホテルに預けていた。

それはそれで可哀想だけれど、本当に可哀想だと思っていたら旅行になど行かないよな、とも思う。

 

 

さて、航空機はあらゆる乗り物の中で最も事故の起こりにくい乗り物である。

実際、では今回の事故より前に、日本でどんな事故があったかを思い出すのはなかなか困難である。

 

 

このほぼ起こらないことに対して一生懸命議論していられる当たり、日本は平和だと思う。

人は感情で行動する。

ロジカルに物事を考えられる人は少ないのである。

くればやし ひろあき

・株式会社ミナクル組織研究所 代表取締役

・フォロワー10万人の教育系TikTokクリエイター「くれちゃん先生」としても活躍中。人間関係や教育についての動画を配信

・1978年、愛知県生まれ。16年間公立中学校の教員として3,000人以上の子どもたちを指導。名古屋市内で最も荒れた中学校で生徒指導の責任者を務め、その後、文部科学省から上海に派遣され、当時世界最大の日本人学校であった上海日本人学校の生徒指導部長を務める。

・互いの「ものの見方や感じ方の違い」を理解し合うことで、他者に寛容な社会を実現したいと願うようになり、2017年独立。

・独立後は、教員時代の経験を活かし、全国の幼稚園や保育園、学校などで保護者向け講演や教職員研修を行う。2018年・2019年には、100人のボランティアスタッフを束ね『子育て万博』を主催。今年10月にパリコレクションのキッズ部門を日本に誘致して開催された『Japan Kids Fashion Week2021』において、全体計画及びキッズモデル・ボランティアスタッフ総勢150名のマネジメントを担当。

・2020年11月、「スタッフみんなが、明日も生き生きと来る!」を理念に、株式会社ミナクル組織研究所を設立。経営者、教職員、スポーツ指導者など、組織のトップや人を指導する立場の人たちから依頼を受け、人間関係づくりやチームづくりに関する講演や企業研修、教職員研修を行っている。経済産業省の事業再構築事業として人材分析システムを開発中。