「伝わらない」を前提にしたコミュニケーション


「わかってもらえるはず」

「伝わるはず」

 

これを前提に人と人が付き合うと、

コミュニケーションの事故が起こる。

 

 

「なんでわからないの?」

「なんで伝わらないの?」

 

 

そう感じるのは、

「わかってもらえるはず」

「伝わるはず」

という前提で、コミュニケーションを試みるからだ。

 

 

この前提を覆してみよう。

 

「おそらくわかってもらえないだろう」

「きっと伝わらないはずだ」

 

 

そんな前提でコミュニケーションを取ってみよう。

おそらく僕らは、持ちうるボキャブラリーをすべて駆使して説明を試みるだろう。

相手の反応を見て、伝え方を工夫もするだろう。

 

 

そうして、ようやく伝わったときの喜び。

これは格別である。

 

 

上海で暮らしていたころ、職場の忘年会でいわゆる「格付け」をやろうという話になった。

芸能人が本物と偽物を見分けることができるかを競うバラエティー番組だ。

 

 

そのパロディーをすることになったので、僕は中国料理屋に向かったのだ。

鶏肉と蛙肉は食感が似ている。

そこで、鶏肉と蛙肉で同じ料理を作ってもらおうと思ったのだ。

しかも、できれば鶏肉と蛙肉の見分けがつかない味付けにしてもらいたい。

 

 

さて、中国料理屋についた僕らは女性店員に片言の中国語で話しかけた。

これがもうさっぱり伝わらない。

 

 

男ふたり、友人は鳥のように羽ばたき、その横で僕は蛙のモノマネをした。

そして、ジェスチャーと拙い中国語で、「これ(鳥)とこれ(蛙)、同じ料理、オK?」と尋ね続けた。

しかも、それをお持ち帰りしたいのだ。

 

 

困り顔の店員と互いの思いを伝え合うこと10分。

僕らは見事、「鶏肉と蛙肉の料理」を手にすることができたのだ。

 

 

このときの喜びったらない。

 

 

「おそらくわかってもらえないだろう」

「きっと伝わらないはずだ」

 

 

その前提に立つから、僕らは工夫をして伝えるし、聞く耳を持つ。

そして、伝わったときの喜びもひとしおである。

 

 

夫婦の会話。

子どもとの会話。

先生との会話。

上司と部下との会話。

 

 

会話はすべからく同じである。

僕らはみんな異なる口を持ち、異なる耳を持つ。

 

 

だから、「伝わらないこと」の方が多いのだ。

ただ、理解しようとして一生懸命耳を傾けるわけだ。 

 

 

「おそらくわかってもらえないだろう」

「きっと伝わらないはずだ」

を前提に伝えてみてはいかがだろうか。

 

 

ちなみに、忘年会の会場に到着して驚いた。

どちらが「鶏肉」で、どちらが「蛙肉」かの表記がないのだ。

さすがに、そこまで伝わらなかったようだ。

 

 

だが、怒りは湧いてこない。

「伝わらない」を前提に話しているのだ。

「仕方がないよね…」と思うしかない。

 

 

なお、中国に住むこと3年。

鶏肉と蛙肉は、みんな一瞬で見分けてしまった。

味と食感は伝わり過ぎなのだな。

 

くればやし ひろあき

・株式会社ミナクル組織研究所 代表取締役

・フォロワー10万人の教育系TikTokクリエイター「くれちゃん先生」としても活躍中。人間関係や教育についての動画を配信

・1978年、愛知県生まれ。16年間公立中学校の教員として3,000人以上の子どもたちを指導。名古屋市内で最も荒れた中学校で生徒指導の責任者を務め、その後、文部科学省から上海に派遣され、当時世界最大の日本人学校であった上海日本人学校の生徒指導部長を務める。

・互いの「ものの見方や感じ方の違い」を理解し合うことで、他者に寛容な社会を実現したいと願うようになり、2017年独立。

・独立後は、教員時代の経験を活かし、全国の幼稚園や保育園、学校などで保護者向け講演や教職員研修を行う。2018年・2019年には、100人のボランティアスタッフを束ね『子育て万博』を主催。今年10月にパリコレクションのキッズ部門を日本に誘致して開催された『Japan Kids Fashion Week2021』において、全体計画及びキッズモデル・ボランティアスタッフ総勢150名のマネジメントを担当。

・2020年11月、「スタッフみんなが、明日も生き生きと来る!」を理念に、株式会社ミナクル組織研究所を設立。経営者、教職員、スポーツ指導者など、組織のトップや人を指導する立場の人たちから依頼を受け、人間関係づくりやチームづくりに関する講演や企業研修、教職員研修を行っている。経済産業省の事業再構築事業として人材分析システムを開発中。