なぜあの人はわかってくれないのか 〜「伝わらない」を前提にコミュニケーションをしてみる〜
わかりやすく話すことは難しいことです。
僕らは自分の考えを書いたり、話したりして「誰か」に伝えます。
僕は「伝えること」の専門家ですから、おそらく人よりも話すことに長けています。
今、全国を出版感謝講演会で回っていますが、「わかりやすい話し方」を褒められることが多いです。
わかりやすく伝えるために、いろいろ工夫していることがあります。
そう、わかりやすく伝えるためには工夫が必要なんです。
で、今日の話題は「わかりやすく伝えるための工夫をしていますか?」ということです。
日々、わかりやすく書いたり話したりすることを心がけている人間だから、人の話を聞いていると、「それでは伝わらないだろうな」と思うことがよくあります。
当の本人は、伝えたいことを一生懸命伝えようとし、熱弁を振るいます。
でも、聞いている相手は理解できないから、「どう言うこと?」と問いかけます。
「どう言うこと?」と問われた方は「なんでわからないの?」と憤りを感じます。
人は「伝わらない」とイライラします。
子どもの場合、「伝わらない」と癇癪を起こします。
でも、ママにはなぜ子どもが癇癪を起こすのか、わかりません。
だって、伝わっていないのですから。
でも、これね、そもそも「伝わる」を前提にコミュニケーションを取ろうとするから、「伝わらない」とイライラするんです。
「わかるでしょ?」
「なんでわからない?」
これがイライラの原因です。
「伝えたら伝わるもの」という誤解がイライラを招きます。
僕は「伝わらないこと」を前提にコミュニケーションを取ることを心がけています。
以前に講演会や個人セッションをした方から、「あのとき、こう言われて救われました」みたいな話をされることがあります。
それは、旦那さんとの関わり方のアドバイスであったり、子育てのコツであったり様々です。
でも、そのほとんどは
「ん?そんなこと、俺、言ったっけ?」
という言葉だったりします。
中には、「それは絶対言ってないよね」という内容もあったりします。
人間というのは、自分にとって都合の良い「切り取り方」をして、人の話を聞いています。
時折、「先生のお話は、私の考えとピッタリ同じでした」と賞賛されることがあります。
僕は心の中で、「そんなことはないのにな」と思っています。
僕がする話の中で、自分の考えと同じ部分だけを、ピックアップしているだけなのです。
人は自分に都合よく話し、自分に都合よく聞いています。
「言った」「言わない」の議論が起こるのはそのためです。
みんな、自分に都合よく話し、自分に都合よく聞いています。
都合の良い部分は覚えていて、都合の悪い部分は忘れます。
人間のコミュニケーションなんて、そんないいかげんなものなのです。
ここに「伝わらない」のヒントがあります。
僕は人の話を注意深く聞き、「この人は何を伝えたいのかな?」をずっと考えています。
幼い子どもたちの話を聞く保育士さんのように、「この子は何を訴えているのだろう?」に耳を傾けるんですね。
それは、大人であっても子どもであっても同じです。
「聴く」という漢字が「耳」と「目」と「心」で作られているように、耳だけでなく、目でその人の様子をつかみ、心で感じ取るように、「わかろう」として聴いています。
僕らはもっと、「伝わらない」を前提にしたコミュニケーションを取る必要があります。
「伝わらない」を前提にして、わかりやすく伝える努力が必要であり、「伝わらない」を前提にして、相手をわかろうとする努力が必要なのです。
「伝わっているだろう」という勘違いこそが、ミスコミュニケーションの原因なのです。