止められてでもやりたいことは?
「お前は働くことよりも、本を読むことが好きなのか?」
そう言ってお父さんは叱りました。
お父さんは、森を切り拓き、土を耕し畑をこしらえる貧しい開拓民でした。
ですから、文字を読むことも書くこともできません。
契約書を読むことすらできませんから、それが原因で農地を奪われてしまうこともありました。
読み書きの価値がわからないお父さんです。
将来は開拓民になるとばかり思っていたお父さんは、本ばかり読んでいる息子のことを苦々しく思っていたのでした。
それでも彼は、本を読むことをやめませんでした。
あるとき、お父さんが持ってきた契約書を見て驚きます。
せっかく開拓した土地を安値で売り渡す、そんな契約書だったのです。
文字の読めないお父さんは、息子のおかげで土地を手放さずにすんだのでした。
そんなこともあって法律に興味をもった少年は、弁護士さんから法律集を借り、法律について学び始めるのでした。
さて、ある年のこと。
ニューオリンズに行った彼は、驚くべき光景を目にします。
それは、奴隷市場で売買される黒人たちの姿でした。
彼は突き動かされます。
彼らを解放しなければ、と思い立つのです。
そう。
彼の名はエイブラハム・リンカーン。
奴隷解放に尽力し、民主主義の原点とも言える人物です。
最も偉大なアメリカ大統領とも評されます。
その後、彼は郵便局員の仕事をし、その合間を縫って測量士の仕事をします。
さらに、法律の勉強を続け、弁護士になります。
やがて政治に興味をもった彼は、州議会議員に当選。
ついには、第16代アメリカ大統領に就任します。
実は、リンカーンのお母さんは、彼が小さな頃に亡くなっていました。
彼にたくさんの本を与えたのは、10歳のときにやってきた新しいお母さん、サラー・ジョンストンだったのです。
新しいお母さんの荷物の中からたくさんの本を見つけたリンカーン。
お母さんは、
「どれだって読んでいいのよ。それはあなたの本でもあるのよ」
と言って、彼の「本好き」を開花させます。
また、お父さんを説き伏せて、学校に通わせてくれたのもお母さんでした。
リンカーンは学校で、ジェファーソンが記した『アメリカ独立宣言』を目にします。
人間は誰もが平等であること、そして自由と幸福を追い求める権利があることを知りました。
すべては、自然の流れの中にあります。
才能の種は、無理して探さずとも、今あるものの中に隠れているのです。
子どもの才能が花開く問いかけの魔法
止められてでもやりたいことは何ですか?
内田 庶 作
『リンカーン 自由と平等を求めた人』
(フォア文庫)