辞めたがってる習い事を続けさせた方がいいですか?
平均身長190.8㎝、平均体重85.8Kg。
そんな大男たちに混じって、身長178センチ、体重74キロの彼は戦っていました。
世界ランキング最高位4位。
それが錦織圭さんです。
彼がテニスに出会ったのは、5歳のころ。
さぞや英才教育を受けて育ってきたのだろうと思いきや、実は違います。
お父さんが社員旅行でハワイに行った際、たまたま見つけた子ども用のラケット。
それをお土産に買って帰ったのが始まりでした。
お父さんが名コーチ、名プレーヤーだったかというと、それも違います。
お父さんは大学でテニスの同好会に入っていた程度。
競技の経験もありません。
4歳年上のお姉ちゃんと鼻歌交じりに公園でボールを打ち合う。
そんな日々を過ごします。
やがて、小学生になると近所のテニススクールに通い始めます。
小学6年生になって全国大会で「3冠」に輝くと、中学生が対象の「修造チャレンジ」に飛び級で参加。
その後、フロリダ州のIMGアカデミーに単身渡米。
錦織圭さんはまだ13歳でした。
IMGアカデミーは、東京ドーム43個分の敷地に様々なスポーツのアカデミーを持つスポーツ選手養成施設です。
テニスコートだけで全52面。
世界80ヶ国から集まった750人の若きアスリートが、プロを夢見て日々トレーニングに励んでいます。
渡米のため錦織圭さんが支援を受けた「盛田テニスファンド」は、到達目標が達成できなければ留学が打ち切られてしまいます。
一緒に渡米した二人の仲間は残念ながら途中で帰国。
彼だけがIMGアカデミーを卒業するまで支援してもらえたのでした。
17歳でプロに転向すると、翌年アメリカ・デルレイビーチ国際選手権で世界を驚かせることになります。
予選から7連勝で勝ち上がると、当時世界ランキング12位のジェームズ・ブレークを破り初優勝を飾ります。
日本人テニスプレーヤーのツアー優勝は、1992年の松岡修造以来、2人目という快挙でした。
さて、幼いころから習い事をさせたい親は多いようです。
「子どもが行くことを渋るのですが、せっかく続けてきたことですし…」なんていう相談もいただきます。
費やしてきた時間やお金がもったいない。
そう考える方も多いようです。
僕が学校の先生だったころの話。
子どもたちは自分自身で行きたい学校を選択します。
それが親が望むような学校名ではなかったとき、
「塾にいくらかけてきたと思っているの?」
そんな声を進路面談で何度も耳にしてきました。
続けるべきか、やめるべきか。
どちらが損か得か。
そんな視点を手放せると、もっと楽になるでしょう。
ここで間違えてはいけないことがあります。
錦織圭さんは、幼いころからテニスに親しんできたから「今」があるわけではありません。
彼には、その「才能」があったのです。
彼にとってテニス「好きで得意で無理なくできること」だったのです。
「テニスが嫌になったこと、やめたいと思ったことはない?」と問われた彼は、「やめたいと思ったことはない」と言い切ります。
続けさせるならば、本当に好きなことを続けさせてあげたいものです。
「せっかく続けてきたのだから…」という「損得」「良い悪い」の視点ではなく、心から人生を楽しめるように。
そんな視点で物事を考えられたらいいですね。
まして、早くから英才教育を始めることが、子どもにとって素晴らしい環境あるとは限りません。
現に、錦織圭さんはお父さんお姉さんとの公園でのテニスから、そのテニス人生をスタートさせています。
また、テニススクールを選んだ理由は「近所だから通いやすい」という理由なのです。
「早く習わせた方が良い」とか、「より厳しい環境で」とか、親が悩むようなことではないでしょう。
もっと子どもを信頼していい。
子どもの人生を信じてあげてほしい。
大切なことは「この子がどうしたいか」ですから。
ついつい比べがちな親ほど、早期教育が大切と考えてしまいます。
ものの見方を少し変えてみてください。
早くから始めるのが良いわけではなく、うまく行っている人の中に「早く始めた人がいる」だけなのですよ。
【参考文献】
文 稲垣康介
『ダウン・ザ・ライン』
(朝日新聞出版)
秋山英宏 著
『頂点への道』
(文藝春秋)