上海で子育てをしてきたから思う、小泉環境大臣が産休を取得することの是非
育休取ろうとして怒られる国
小泉新次郎環境大臣が育休を取得すると発表したんですね。
まー、でも、やっぱこの国はホント、なんでそーなるかなー?と思うんですが、批判が生まれるわけです。
「しっかり奥さんのケアしてあげるんだぞ!」とはならない。
「2週間じゃ短すぎる!」って声もある。
「政治家なんだから法整備が先だ!」って声もある。
「お金があるんだからベビーシッターを雇え!」って声もある。
なんかね、こんなことばっかやってると、みんな萎縮して、できるだけ行動しないことを選ぶようになるよね。
2週間は短いかもしれないけれど、公務に差し障りがないように調整しながら産後の奥さんをサポートする。
いいことじゃん。
もろもろあって雲隠れしていた議員さんには何百万円も給料払ってるんでしょ?
2週間ぐらい奥さんと赤ちゃんのお手伝いさせてあげなよ〜って思うよ。
首相、産休に入る
ニュージーランドの首相、アーダーン首相は38歳。
ムッチャ若い!
しかも女性!
なんかそれだけでもスゴイね、って思う。
日本の国会議事堂って、お年寄りばかりだもんね。
安倍首相、若く見えるけど65歳。
第4次安倍内閣の平均年齢は61.95歳。
ちなみに、主要7カ国で最も若いカナダは49.97歳なんだそうな。
女性閣僚はだいたい10%の日本。
カナダはだいたい半分女性閣僚なんだそうな。
で、そのニュージランドの首相であるアーダーン首相。
2018年に産休を取得。
第1子となる女の子を出産したのだそうよ。
まあ、素敵。
国民が祝福ムードってのがいいわよね。
しかも、お相手はパートナーのクラークさん。
籍は入れていない感じね。
こういうのも、日本だったらスキャンダラスに報道されるんだろうな。
正義の味方が悪を生み出す
この国の人はみんな怒ってる。
なんだか知らないけど、イライラしている。
「いいね」って声よりも「それ、おかしくない?」の声の方が大きくなりやすい。
とにかく叩く。
叩くと気持ちよくなるのは、「いじめの構図」とまったく同じなんだよね。
「いじめ」が起きるときって、子どもたちの話を聞いていると、まず「正義感」からスタートしている。
テレビドラマのように「おとなしい」だけで「いじめ」が始まるわけではない。
なんらかの「フック」があって、それが鬱屈した子どもたちの「正義感」に火をつける。
「正義感」は「悪」を生み出し、弱い者たちがさらに「弱い者」を叩こうとする。
戦隊モノのヒーローたちは確かに彼ら側から見たら「正義」かもしれないが、集団で「怪人」を倒す。
それについて、誰も疑問には思わないけれど。
「名探偵コナン」が「すぐに人が死ぬ」という理由でPTAの皆様の「子どもに見せたくないテレビ番組」にランクインしていたんだけどね。
戦隊モノのテレビもまた、僕はなかなか残酷な番組だな…と思って眺めていた。
とにかく叩きたい人たち
子育てをしやすい環境をつくることは、この国の喫緊の課題だと思うのね。
これからどんどん人口が減っていく。
超高齢社会を迎えて、支えられる人間は増えるのに、支える人間はどんどん減っていく。
若者が少なくなれば、それだけ活気も失う。
一方で活気のある国はやはり若者が多い。
アジアを旅すると本当にエネルギッシュだ。
今、僕らの暮らしはお金と切っても切り離せない。
だから、経済的な支援策が必要という声もよくわかるんだな。
でもさ、たぶん女性が結婚や出産に向かえない理由はそれだけではない気がするんだ。
そもそも僕ら動物は、「種の保存」ってのが、一番のテーマだ。
野生動物は、交尾し子を産み育て、次世代に種を残す。
その繰り返し。
生命の営み。
そう、ライフサイクル。
「お金がかかるから子どもをつくるのやめよう…」みたいな動物はいないわけで。
産むか産まないか迷う…みたいなことは動物の世界には存在しないのだ。
そうやって生き物は絶滅しないように生命のバトンを繋ぎながら、進化してきたのだ。
自然か不自然か、で考えたとき、今の空気感ってやっぱり不自然だと思う。
この国に漂う「なんとなく子育てって大変そう」ってイメージ。
こっちの方が問題だと僕は思っている。
上海から日本に帰国して
上海から日本に帰国したとき、我が家の子どもたちは10歳、8歳、3歳だった。
3年ぶりに日本に帰国して、最初に外務省に向かったのだけれど。
久しぶりに日本の地下鉄に乗ってみて、なんだか息苦しさを感じた。
みんな、シーンと静まりかえっている。
下を向きスマホをいじる人。
黙って目を瞑る人。
とにかくみんな押し黙って、ひっそりとしている。
耳には地下鉄の機械音だけが響いている。
すると、赤子が泣き出した。
お母さんが申し訳なさそうな顔をする。
周囲の乗客が迷惑そうな顔を見せる。
すると、別の子どもがおしゃべりを始める。
お母さんが「静かにしなさい」とたしなめる。
この国では、他者に配慮して子育てをしなければならないのだ。
一方、上海では他者に配慮されて子育てをしてきた。
「赤ちゃんがいる」ということはすべての免罪符のようだった。
次男坊のおかげで、僕らはずいぶん中国人に助けられて子育てをしてきた。
行列のできる飲食店でも並んだことがない。
赤ちゃんがいるだけで「お前たち、先に食べろ」と言って席を譲られる。
僕らは次男坊を「ファストパス」と呼んでいた(笑)
ちなみに、飲食中は店員さんが赤ちゃんを抱っこしていてくれたのだ。
一部の店舗のサービスではない。
どこに行っても赤ちゃんを大切にしてくれたし、赤ちゃんがいる家族を大切にしてくれた。
反日感情が高まった時期を僕らは中国で過ごしてきた。
3人も子どもがいると一目で「日本人」とわかる。
だが、それで嫌な思いをしたことは一度もない。
赤ちゃんに優しい国だし、赤ちゃんがいる家族に優しい国でもある。
赤ちゃんはみんなの宝
あるとき、中国人のママに「なぜ中国人は赤ちゃんやその家族に優しいのか?」ということを尋ねた。
彼女の答えはシンプルだった。
「だって、赤ちゃんは私たち全員の宝でしょう?」
僕らは言葉を失った。
そこに日本人も中国人も関係がなかった。
これから生まれてくる赤ちゃんは、僕ら人間にとって全員の宝物だ、というのである。
「産んだ者ががんばって育てよ」という日本の無言の圧力とは違い、「みんなの宝なんだからみんなで育てようぜ」という空気がある。
あるとき、妻がベビーカーを押して歩いていたら、地下鉄の階段に差し当たった。
(困ったな…)と思った妻だったのだが、そこへ颯爽と若者が現れベビーカーを担ぎ、数段の階段を登って運んでくれた。
妻は「謝謝」と幾度も幾度も頭を下げた。
すると、若者は少しだけ怪訝な表情を見せた。
彼らにとってそれはごくごく自然な当たり前のことで、そこまでお礼を言われるようなことでもなかったらしい。
また、あるとき。
ベビーカーを押して地下鉄に乗ろうとしたときのことだ。
あいにく混雑している時間帯だったのか、ホームにやってきた地下鉄は満員でさすがにベビーカーが載せられるような状況ではなかった。
「1本見送ろうか?」
そんな話をしていたときのことだ。
出入り口付近の若者が数人降りて、「お前たち、乗れ!」と言うのだ。
「自分たちは次の電車で乗るから」と言う。
僕らはまた驚いてしまった。
日本ではラッシュ時にベビーカーを乗せようとしたママへの批判が集まっていた。
「時間帯を考えろ!」と言うのである。
日本の満員電車の惨状を想像すれば、確かにその気持ちもわからなくはない。
だが、サラリーマンにサラリーマンの事情があるように、ママにもママの事情がある。
ベビーカーを押してでも、その地下鉄に乗らねばならない事情があったわけだ。
そんなニュースを見ていた僕らは、中国人の言動にはずいぶん心を打たれたことを覚えている。
しかも、何がスゴいかと言うと、それを自然にサラッとやれてしまうことである。
「ママのために」「赤ちゃんのために」ではなく、「それって普通でしょ?」って感じでサラリとやれてしまうところに、僕は驚いていた。
子育てしやすい国
この国はどこへ向かうのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えている。
これから、どんどん人口が減っていく。
人間の数は力である。
力を失えばやがて滅びる。
これってけっこうヤバい状況だと思うんだけど。
赤ちゃんが産み育てやすい空気感ってものをつくろうという雰囲気はない。
法整備ももちろん必要だろうけど。
もっと大事なのは、この国に流れる「なんとなく子育て大変そうだし」みたいな空気を変えることだと思う。
日本では育児や出産がどうしても「女性」が孤軍奮闘している。
これはもう、環境や文化なのだと思う。
「みんなで育てる」みたいなカルチャーを生み出せなかった。
その結果、お母さんたちもまた疲弊している。
心も体も、である。
この空気感を変える一助として、小泉環境大臣は育休取得をしようとしたんだけど。
とりあえず、批判の声が押し寄せてしまうわけだな。
結婚する若者が減った。
夫婦の数が減少したのだから、赤ちゃんが減るのも仕方がない。
したがって、できれば2人目3人目を産みたいと考えるご夫婦が増えることが必要なのだろう。
幸せなお産、幸せな産後、幸せな育児。
そんな時間の中で、夫婦が愛を育み、2人目3人目を産もうという気持ちにさせることが重要だと思っている。
旦那さんが産後のママのお手伝いができる環境。
僕はとっても大切なことだと思う。
環境大臣自らが、まずやってみる。
「いいじゃないか!」と思うのだ。
やってみてから議論すればいい。
2週間が短いのか、育休を取るとどのくらい仕事が滞るのか。
そして、奥さんはどれぐらい助かるのか。
やってみなきゃわからないことが山ほどある。
そうやってまず動く。
そして、検証する。
この国が少しずつ子育てしやすい国に変わるといい。
僕は今、そんなことを考えている。