楽器の名前がわからない!

僕はある年、吹奏楽部の顧問になった。
サッカー部と吹奏楽部と野外活動部の顧問だ。
3部掛け持ち顧問。
ちなみに、組合の支部の青年部長になった。
中学夜間学級(夜間中学)の講師として週に一度は校外で夜、授業をしていた。
その年、全国大会で研究発表を行い、優良教員に選ばれた。
超コスパの高い教員だった(笑)
働かせすぎだと思う。
で、僕が受け持った吹奏楽部は2年前に全国コンクールに出場するような部活動だった。
そのため、昨年顧問の成り手が見つからず、教務主任が渋々顧問となり散々な目に合っていた。
顧問の先生が「絶対に全国に連れて行く」と豪語し、「全国に行けば、公立高校の推薦で簡単に受験できる」みたいなことを話していたらしい。
(これは職員の中でも問題視する声があった)
異動することはわかっていた。
だが、よくできた校長先生だったけれど、顧問の成り手を引っ張ってくることができなかった。
かなりアコギな指導をしていると、噂が噂を呼んでいたらしい。
異動してきたのは「合唱」の専門家で、「私は顧問なんてやらない」と言う。
新任の教務主任が、仕方なく吹奏楽部の顧問になった。
そんな事情は知らない保護者は憤り、教務主任は散々な目に合っていた。
そして翌年、まさかの教務主任退職。
それで、廃部にする最後の一年を僕が顧問することになったのだ。
さすがは、ユーティリティープレイヤー♡
ある日のこと、部長の女の子が僕のところに鍵を持ってきた。
ミッキーマウスのキーホルダーがついた可愛らしい鍵だった。
生徒:「先生、この鍵、どうしたらいいですか?」
僕:「ん?その鍵は?」
生徒:「学校の鍵です」
僕:「…。学校の鍵?」
なんと、その鍵は学校のマスターキーだった。
日直の先生が校舎の施錠確認に使う、校舎の扉がどこでも開けられる鍵だった。
僕:「えっ?どういうこと?」
生徒:「先生が来れない日は、これで校舎を開けて練習してました」
僕:「はあ?」
ヤバい。
なんか、ヤバい。
顧問なしで活動してたの?
音楽準備室の鍵を開けて、楽器を出してたの?
これって、理科室も開けられるんじゃないの?
って、これ、勝手にスペアキー作っていいの?
もうなんかヤバいんですけど。
脳みそはパニックっス!
僕:「うん、わかった。その鍵は先生が預かるね」
そう言って鍵を受け取ると、僕は管理職に報告をした。
だが、問題はそれで終わらなかった。
後任の音楽の先生がけっこう嫌な奴だった。
なんと、音楽の備品点検を僕にやれと言うのだ。
教室ひとつが丸々楽器庫になっていた。
すべて音楽科で購入した楽器である。
通常、音楽科の先生が点検するものである。
だが、あまりの数に嫌気が差したのだろう。
「吹奏楽部の顧問なんだから、あなたが点検しなさい」
このクソババァ!
大編成の吹奏楽部が演奏する楽器をひとつひとつ確認する。
鬼のような作業が始まった。
だが、問題が発覚した。
ケースに書いてある楽器が、本当にその楽器なのか、僕にはわからないのだ。
トロンボーン、ホルン、ユーフォニアム…。
ユーフォニアムって何よ?
いちいち、図書室の楽器辞典で調べながら、点検していく。
「なんで、ドラムが2台あんねん!」となぜか関西弁で憤る。
「2バスって、お前らX JAPANかよ」とキレてみる。
そして、問題が発覚する。
「マリンバ」と書かれたケースに入った「トランペット」。
これは素人にもわかる。
絶対、トランペットだ!
プロ野球の応援で使う楽器だ。
で、マリンバってなんだ?
そこでまた、楽器辞典の登場である。
マリンバ。
どう見ても木琴。
おい!
マリンバでトランペット買ってんじゃね〜よ!
はい、管理職に報告。
もう、わけがわかりません。
その後、大量の楽器を配置転換で他校に譲ることになったんだけど、大変だった。
なにせマリンバという名のトランペットだからな。
エアコンのない教室。
山積みの楽器。
夏休み、汗だくになりながら、楽器の点検をした。
思い出しただけでもムカつくんだけど。
「なんでこんなことやらないかんのよ」と思いながら仕事してたな。
僕なんてもらった予算、サッカー部のボールを買うだけで終わってた。
審判をやらなきゃいけなかったから、講習代だとか審判服代とか全部自腹だったし。
結局好き勝手やってルールもへったくぶれもない先生がいて、一方でそれを全部被る先生がおるのよ。
根本的な問題はそこだと思うね。
