サッカーオリンピック男子日本代表がチラ見せしてくれた理想的な組織の姿


「組織」というものの正体は、「生き物」であるということです。

大きな組織から小さな組織まで、ありとあらゆる「組織」は「生き物」です。

 

 

リーダーは意思決定を行う、いわば「頭脳」と言えます。

ところが、です。

「組織」という名の巨大生物は、この「頭脳」の通りに手足を動かすわけではありません。

 

 

人間だって、年老いて神経その他いろんな経路がうまく機能しなくなると、思ったように動かないものです。

 

 

40代を過ぎてからサッカーをしましたら、ボールを蹴ったつもりが空振り!なんてことがありました。

目で捉えたボールの映像を脳が処理し、ボール目掛けて足を振る。

ここまでイメージ通り。

それなのに、足は見事に空を切り、すってんころりん、転んでしまったわけです。

 

 

で、組織が大きくなるほど、こういうことが起こります。

「頭脳」からの「伝達」がうまく伝わらず、リーダーの意思とは違う方向に行ってしまうことがあるんですね。

 

 

学校の先生が、こういう方向に学級をもっていきたいと思っていても、その意図通りの方向に進まないことはよくあることですし、プロスポーツのチームでも空中分解してしまうこともあります。

方向性を揃えるのってコツがいります。

その「方向性」こそがリーダーのヴィジョンです。

 

 

たとえば「頭脳(リーダー)」が北へ向かおうとしているとします。

「手足(スタッフ)」は南へ行こうとしています。

 

 

そんなとき、「じゃあ、北へ向かおうか」と思わせるのが「信頼」です。

リーダーがそう言うのなら、それに従おうか、と動くのです。

 

 

渋々、北へ向かわせる。

力づくで北へ向かわせる。

それは圧力です。

 

 

まして、手足がみんな南へと向かい出したら反旗を翻したということです。

「頭脳」と「手足」を一致させて動くということは、本当に大変なことなのです。

 

 

僕らは当たり前のように、手を振り足を前に出して歩いています。

でも、本当はそれ、すごいことなんです。

「組織」はこれを個々の人間が連動しなきゃいけないんです。

 

 

となると、実はトップダウンでは動かないことは明白なんです。

組織という大きな「生き物」をリーダーひとりの意思決定で動かせるはずなどないのです。

 

 

であるならば、それぞれの手足もまた、それぞれが頭脳となって、自分で考えねばなりません。

そのとき、みんなが好き勝手、てんでバラバラのことをしていたのでは組織のテイをなさなくなります。

 

 

ですから、ヴィジョンが必要なのです。

明確なヴィジョンを打ち出し、それに従って行動するんですね。

 

 

ヴィジョンは「行動」の取捨選択の基準となるものです。

「私たちは何をするべきか」だけでなく「私たちは何をしないのか」までも定義することによって、人が主体的に動きやすい環境を作っていくわけです。

 

 

先日のサッカーオリンピック代表の試合。

ニュージーランドとの試合は延長戦にもつれこむ大接戦でした。

 

 

延長戦の直前、テレビの画面は作戦ボードを指差し、選手に指示を出す遠藤航選手の姿が映し出されました。

それを森保監督が見守っていました。

印象的なシーンだったため覚えていたのですが、後日ニュースサイトを見ていましたら、そのシーンについて「選手が勝手に指示を出していて、監督は何もしていない」というコメントが掲示板にありました。

 

 

(それは違うぞ)と思いました。

これまでチームのコンセプトをしっかりと落とし込んできたからこそ、チームは予選リーグ3連勝と破竹の勢いで勝ってきました。

「金メダルを獲る」というヴィジョンも明確です。

 

 

だからこそ、森保監督は何も語る必要がないのです。

その意思をしっかり理解したオーバーエイジの遠藤選手が作戦ボードを片手に話し合う。

それでいいのです。

それこそが組織なのです。

 

 

古いタイプの人間は、未だに「監督」が中心にいなければならない、いるべきだ、と考えます。

そうではありません。

「中心」にいてはいけないのです。

 

 

学校の先生だって同じです。

「先生」が主役の学級経営ではならない。

「先生」がいなくても、機能していく。

それが学級経営というものです。

 

 

僕には苦い経験があります。

初任の学校のとき、サッカー部の顧問でした。

それはもう厳しく指導し、休みはほとんどなし。

それでもチームは一向に強くなりません。

公式は1回戦負けを繰り返していました。

 

 

時は過ぎ、僕はその学校を去らねばならない時期が近づいてきました。

そこで、厳しい指導やあれこれ指示を出すことをやめました。

僕が去ったあと、サッカーに詳しい先生が来るとは限りません。

 

 

素人の先生が来てもサッカー部として成立するように、子どもたちだけで話し合う時間をたくさん作りました。

するとどうでしょう。

どんどん強くなっていくのです。

 

 

そして、僕がチームを去ったその年。

最後の教え子たちが県大会へとコマを進めました。

指導者が主役ではいけないと強く感じさせる出来事でした。

 

 

組織は「生き物」です。

すべてがの細胞が、自ら考え、自ら動く。

そういう組織になることが理想ですし、そこで一枚岩になるためにも、明確なヴィジョンが必要なのです。 

 

 

くればやし ひろあき

・株式会社ミナクル組織研究所 代表取締役

・フォロワー10万人の教育系TikTokクリエイター「くれちゃん先生」として人間関係や教育についての動画を配信

・1978年、愛知県生まれ。16年間公立中学校の教員として3,000人以上の子どもたちを指導。名古屋市内で最も荒れた中学校で生徒指導の責任者を務め、その後、文部科学省から上海に派遣され、当時世界最大の日本人学校であった上海日本人学校の生徒指導部長を務める。

・2018年~2019年 100人のボランティアスタッフをマネジメントして『子育て万博』を主催。

・2021年~2024年 パリコレクションのキッズ部門を日本に誘致して開催された『Japan Kids Fashion Week』において、全体計画及びキッズモデル・ボランティアスタッフのマネジメントを担当。

・経済産業省の事業再構築事業として人材分析システムCrewDocks®︎を開発。企業研修など精力的に活動中。