部下の伸び代や可能性に目を向け、成長につながる仕事や立場を与える
ある男性の話をします。
彼は193㎝のがっしりした身体をしていましたが、胴がとても長く、足は短いという体型をしていました。両手両足は異様に大きく、両手を広げると2メートルを超えました。普通の人は両手を広げると身長と同じくらいになりますから、極めて腕が長かったことになります。
そのようなバランスの悪い身体をしていましたから、うまく踊ることができず、走るのも苦手だったのだそうです。
しかし、彼にはその体躯を生かして能力を発揮できる場所がありました。
それが水の中です。
彼の名は、マイケル・フェルペス。
オリンピックにおいて金メダルを23個獲得した怪物です。
彼は勝負する場所を「水の中」に選んだからこそ、大成功を納めることができました。
「置かれた場所で咲きなさい」と言いますが、「適材適所」という言葉が示す通り、どこに置くかは極めて重要な問題です。彼を「陸」に置いたのでは咲く花も咲かないわけです。
しかし、実際の組織の中では、所属する側が自分の能力を最大限に発揮できる役割や部署を希望できることはまずありません。もしかしたら「陸でがんばってるフェルペス」がいるかもしれないと考えると采配を振るうリーダーの役割は極めて重要です。
リーダーがマネジメントする際にできることのひとつは、一人ひとりをどこに配置し、どんな仕事や役割を与えれば、能力を最大限に発揮できるかを考えることです。
一人ひとりの人の能力を見極め、最適な役割を与えれば、組織としての成果は最大に近づきます。
学校現場でも校務分掌表という役割分担表があり、年度当初に自分の役割を割り当てられます。もちろん、一応は希望を聞いてもらえますが、管理職が組織全体のことを考えながら任命していきますので、なかなか希望は叶いません。どこの企業でも似たようなものでしょう。
僕の16年間の教員生活は、そのほとんどが「生徒指導」の担当でした。文化祭などの学校行事などは希望しても、ついぞ叶うことはありませんでした。
僕が初めて生徒指導主事という「生徒指導」のリーダーを担当したのは、当時市内で最も荒れた中学校でした。校名を言えば、「ああ、あの学校か」と誰もが知っているような学校です。
子どもたちとの人間関係づくりは長けていましたが、身体は大きくありませんし、コワモテでもありません。そんな学校で「生徒指導」をするようなカンロクもありませんでした。
前任の生徒指導の先生はコワモテで心身ともに屈強な保健体育の先生でしたし、生徒指導ではたくさんの実績がある有名な先生でした。年度の初め、後任に選ばれたのを聴いて、幻聴かな?と思ったぐらいです。
当時の管理職が何を思って僕にその役割を与えたのか今となってはわかりませんが、その采配のおかげで、僕は才能を伸ばすことができましたし、先生としての自信もつけることができました。
その後、文部科学省から海外赴任をさせていただき、当時世界最大の生徒数を誇った上海日本人学校でも、自信をもって生徒指導部長を務めさせていただきました。
マネジメントするリーダーは、個人の能力を見極めたうえで、どうすればこの能力を生かすことができるか、頭を悩ませる必要があります。
僕の強みは全体を俯瞰して眺め、ゴールまでの道のりを描けることです。
例えば、廊下で生徒同士の喧嘩が起こったとします。
「A先生は喧嘩を止めてください。
B先生はA先生をサポートしてください。
C先生は職員室に連絡してください。
D先生は他の生徒を教室の中に誘導してください。
E先生はA先生の代わりに授業に行ってください」
瞬時にそれらのことを頭に描くことができました。
加えて「話を聞くこと」「文章を書くこと」も好きで得意なことでした。
ですから、全体の指示を出すと同時に、同僚から話を聞いて、校内で起きていることを丁寧にまとめ、管理職に報告をすることを心がけました。
僕の能力を生かす立場を与えてくれたことにより、こんな僕でも、当時市内で最も荒れた中学校で生徒指導をすることができました。もちろん、僕の弱点を補ってくれる仲間の存在があったことは言うまでもありません。
「この人の能力を最大限に生かせる仕事は何だろう?」
そんな問いを心の片隅に置いて、組織を眺めてみてください。