事実にフォーカス-部下の失敗は、「事実」と「主観」に切り分ける
組織をマネジメントしていれば、部下の失敗に出くわすことは山のようにあります。そんなとき、リーダーはどのように考え、行動すれば良いでしょうか。
例えば、大事な商談に部下が遅刻してきたとします。
それを見て、「この人は時間にルーズな人だ」という印象が脳に焼き付いてしまう。ひとつの失敗を見つけると、それがあたかもその人の人間性を決定づけるかのような悪い印象として残ってしまう。そんなことってあると思うのです。
部下としても、こういった汚名を払拭することは簡単ではありません。さらに、リーダーから悪い印象を持たれているとなれば、その部下が組織に居づらくなってしまいます。
とは言え、その悪い部分を放置しておくのもリーダーとして「相応わしい行動」ではない。部下を傷つけず、失敗については放置しない。そのためにリーダーができることは何でしょうか。
それは「事実」と「主観」を切り分けて考えるということです。「事実」のみにフォーカスし、次にその失敗が起きないように改善策を練ります。「主観」を切り捨てることが大切です。
もう少し具体的に話をしましょう。
大事な商談に遅刻をした部下。あなたは頭に血が昇り、「コイツは時間にルーズな人で、社会人としての常識がない」とジャッジしてしまう。でも、それではあなたと部下との関係性は壊れていくでしょう。
そこで、まず「事実」と「主観」を切り分けて考えます。
「事実」は「時間に遅れてきた」です。
それに伴うあなたの評価である「ルーズな人だ」「常識がない人だ」が「主観」です。
「事実」は人によって変わりません。
約束の時間に遅れてきたことは、あなたから見ても、僕から見ても、今あなたの隣にいる誰かから見ても「時間に遅れてきた」です。
しかし、「主観」は人によって変わります。
時間に遅れることはあなたから見ると「ルーズ」かもしれませんが、僕から見ると「そんなこともあるよね」なのです。
国によっては、「来ただけ偉いよね」という国もあるそうです。
ある夏、北海道に講演に出かけたときのこと。
主催者様から「今年の北海道は暑いから。半袖で大丈夫だよ」と連絡をもらいました。
それで僕は名古屋で過ごしている服のまま、北海道へと飛び立ちました。
名古屋の夏は暑いですから、半袖短パンの常夏スタイルです。
ところが、空港に降り立って「おや?」と思いました。なんだか肌寒いのです。
(服装を間違えたな)とすぐに気づきました。
それで、主催者さんの車の助手席に腰を下ろしながら「この気温って北海道の人には暑いんですか?」と尋ねたら、「暑いですよ!」と即答。ダッシュボードにある車外温度計は20℃台を示していたのですが。
酷暑が続く名古屋からの移動でしたので、僕からするとエアコンの中で過ごしているような体感でした。
「事実」は20℃台なのに、北海道の人の「主観」は「暑い」と判断し、名古屋の人の「主観」は「寒い」と判断したのでした。
このように「事実」は誰が見ても同じであり、「主観」は人によって変わるものなのです。
さて、僕らは「悪い部分」はしっかりと見えて、「良い部分」にはなかなか気づいてあげられない偏光レンズでこの世界を眺めています。
どうしたって、「悪い部分」が目につきますし、それを見て「ダメな人」というレッテルを貼ってしまうところがあります。
「悪い部分」が見えたときこそ、「事実」と「主観」を切り分けて考えていただきたいのです。
「時間に遅れてきたこと」は「事実」です。
しかし、この人を「ルーズな人だ」「常識がない人だ」とレッテルを貼ったところで、時間を守れるようになることは絶対にありません。
「ダメな奴だ」とレッテルを貼った時点で、僕らはその人のことを深く理解しようとする態度を捨ててしまいます。もしかしたら、交通機関が事故で遅れていたのかもしれませんし、困っているお年寄りを助けていたのかもしれないのです。
「主観」で捉えたレッテルについて指導しようとすると部下としては、ただただ精神を削られるパワーハラスメントにしか映りません。
「時間にルーズな人間が会社で勤まるか!」
「お前には社会人としての常識がないのか!」
これらの言葉は、レッテルを貼った側の「解釈」であり、それを責めたところで、部下には手の施しようがないのです。
指導すべきは「事実」だけ。それも「叱る」のではなく「改善策」を練ることが大事。
「時間に遅れてきたこと」は「事実」ですから、そのことにのみフォーカスすることが大切です。次の機会には時間に遅れてこないようにする手立てを考えていきましょう。
「どのようにすれば時間に遅れないか?」
そんな問いを一緒に考えたいものです。相手が悪く見えたときこそ、「事実」にフォーカスをしてみてください。