可能性にフォーカス ー隠れた才能を見つけて、まずはやらせてみる


「経験」や「得意」などは目に見えている能力ですから、本人も周囲の人もある程度、その能力を認知できています。リーダーとしては生かしてあげやすいものです。

だからといって同じような仕事ばかり与え過ぎると、仕事に飽きてしまい惰性でやることが増えてしまいます。

緊張感を欠き、仕事のクオリティは少しずつ低下していきます。

人間の心の奥底には「成長したい」という欲求が眠っていますから、それを刺激するような新しいチャレンジをさせることで、さらなる成長を期待したいところです。

「あなたにはこんな可能性があるよ」というリーダーの期待を乗せて新しいチャレンジをさせてあげると、部下としては「期待されている」「信頼されている」と感じ、より関係性が高まっていきます。

ある年のこと、僕は一人の女子生徒に注目をしました。彼女は、学級内で特別に目立つわけでもない、普通の女の子でした。

学校ではよく「学習班」という小グループを作り、グループ活動をします。彼女のいるグループは、他のグループと比べて盛り上がっているように思えました。それも、グループが変わっても、グループが変わっても、いつも彼女がいるとグループが活性化しているのです。

不思議に思ってその様子を近くで眺めていると、彼女のまだ見ぬ才能に気づかされました。彼女は意見を引き出すことの天才なのです。

級友の言葉に笑顔でうなづき、「すごーい!」「そうなんだ!」と、彼ら彼女らの気分を乗せていきます。とにかく雰囲気が良いのです。男女の分け隔てなく、どんどん声をかけていきます。

彼女自身が強烈なリーダーシップを発揮するわけではなく、指示を出すこともありません。それでも僕の目から見て、彼女を中心にグループ活動が回っているように見えました。

ある日の放課後、彼女を呼び、「次の学級委員に挑戦してみない?」と声をかけました。

驚いた表情を見せると、「私、そんなのやったことないし」と固辞しました。

そこで、僕が教室の中で見てきた事実を伝え、「あなたには学級のリーダーが十分できるだけの才能がある」という僕の「評価」を伝えました。それと同時に、「級友のサポート」が十分に得られる配慮することも約束しました。

組織をマネジメントするリーダーの「評価」を「期待」を添えて伝え、相手の不安を解消するための「支援」を「約束」した上で、新しい「役割」にチャレンジさせたのです。

勇気を出して学級委員に立候補した彼女のことを、級友たちも適任だと感じたのでしょう。未経験であったにも関わらず、投票の結果、見事に学級委員に選ばれたのでした。

ですが、リーダーに選ばれたからと言って、彼女の様子が大きく変わることはありません。相変わらずいつも笑顔で「みんな、どうする?」と話すばかりなのですが、みんなが積極的に意見を言うようになり、学級全体が自発的に行動するようになりました。

その役割を任せた僕としては、してやったりなわけです。

周りを乗せ、巻き込むのがうまい。そんな強みを生かして立派に学級のリーダーを務めました。そして、そのことで自信を深めた彼女は、進級して新しい学級になっても、自分から学級委員に立候補するようになっていきました。

実は隠れた才能というのは、本当に隠れているわけではありません。

才能は誰にでも存在し、常に使われています。しかし、言語化されていないため、周りの人も、そして本人も無自覚なのです。

 

リーダーは、一人ひとりの「才能」に敏感でありたい。そして、「才能」に気づいたときは、素直に評価し、言葉で伝えてあげることが重要です。

本人が無自覚だった才能にいち早く気づき、それを伝えてあげるだけで、リーダーに対する評価は高まります。

 

「毎朝、○○さんは教室に一番に来て、窓を開けてくれてるんだよ」

「この前、重い荷物を持っている○○さんをね、○○くんが助けてくれてたんだよ」

 

例えばそんな些細な行動であっても、その人には「他者に親切にできる」という才能があるわけです。その優しさを生かすことができる役割がきっとあるはずです。

隠れた才能に気づき、それを言葉で伝え、その才能を生かせる役割を与えていきます。

すると、その人は才能を生かして大きく成長しますし、何よりあなたに大きな感謝の念を抱き、それはリーダーへの信頼につながるのです。

「目の前の人には、どんな可能性があるだろう?」

そんな問いをもつことが大切です。

くればやし ひろあき

・株式会社ミナクル組織研究所 代表取締役

・フォロワー10万人の教育系TikTokクリエイター「くれちゃん先生」としても活躍中。人間関係や教育についての動画を配信

・1978年、愛知県生まれ。16年間公立中学校の教員として3,000人以上の子どもたちを指導。名古屋市内で最も荒れた中学校で生徒指導の責任者を務め、その後、文部科学省から上海に派遣され、当時世界最大の日本人学校であった上海日本人学校の生徒指導部長を務める。

・互いの「ものの見方や感じ方の違い」を理解し合うことで、他者に寛容な社会を実現したいと願うようになり、2017年独立。

・独立後は、教員時代の経験を活かし、全国の幼稚園や保育園、学校などで保護者向け講演や教職員研修を行う。2018年・2019年には、100人のボランティアスタッフを束ね『子育て万博』を主催。今年10月にパリコレクションのキッズ部門を日本に誘致して開催された『Japan Kids Fashion Week2021』において、全体計画及びキッズモデル・ボランティアスタッフ総勢150名のマネジメントを担当。

・2020年11月、「スタッフみんなが、明日も生き生きと来る!」を理念に、株式会社ミナクル組織研究所を設立。経営者、教職員、スポーツ指導者など、組織のトップや人を指導する立場の人たちから依頼を受け、人間関係づくりやチームづくりに関する講演や企業研修、教職員研修を行っている。経済産業省の事業再構築事業として人材分析システムを開発中。