悪い結果に対して「叱ること」は逆効果。次の行動につながる適切なフィードバックをする


部下を指導する際、従来のリーダーたちは「叱る」という指導法を選んできました。

実は「叱る」という指導は、「やっては行けないこと」を禁止するときにとても有効です。例えば、廊下を走る生徒たちに、「廊下を走るな!」と叱れば、廊下を走る生徒は少なくなります。「叱る」は叱られた側の「行動」を減少させるという効果があるからです。

ところが、「報連相をさせたい」のように何らかの行動を促したい場合、「叱る」は逆効果になります。

一見、「行動しなかったこと」を叱ることは、「行動しなかった」という行動を減らすように思えます。しかし、「親に叱られるから勉強する」という子どもたちが机に向かったところで、成績が伸びないのと同じように、「叱られるからやる」という動機は、その行動の効果を消し去ってしますのです。

そこで、行動しなかったときに「叱る」のではなく、行動したときに褒めたり感謝したりしてみましょう。

これは我が家での出来事です。

洗濯が終わって、まだ濡れたままの洗濯物が、カゴに入ったまま放置されていました。妻は急いでいたのでしょうか。僕はそれを見つけて、干しておきました。帰宅した妻が、洗濯物が干してあるのを見て、「干してくれたんだ!ありがとう!」と言って、感謝を伝えてくれました。

気分を良くした僕は、その後洗濯機が回っていると「いいよ、干しておくから」と伝えるようになりました。

こういったことは、ある程度慣れてくると「やってくれて当たり前」になりがちです。やがて「感謝を伝える」ということを忘れてしまいます。

ところが妻は偉いもので、今でも洗濯物を干したり、洗い物をしたりする僕に「ありがとね」と伝えてくれます。それで僕はまた、事ある毎に家事をやる良い夫になったのでした。妻に育てられたと言っても過言ではありません。

一方、こんな話も耳にします。

ある旦那さんは洗濯物を干したら、奥さんから洗濯物の干し方をみっちり指導されたのだそう。「タオルはパタパタしてから干すのよ」とか「Tシャツのシワを伸ばしてからハンガーにかけてよね」とか。

その結果、「家事をする」という行動をしなくなりました。わざわざ家事を手伝って叱られるぐらいなら、手伝わずに嫌味を言われた方がマシ、と考えたのです。

行動することで「好ましい思い」をすれば、人は行動を続けようと考えますし、行動することで「好ましくない思い」をすれば、人はその行動を避けようとします。

それはある日のこと。僕が干したTシャツのシワをこっそり伸ばしている妻を目にしました。「Tシャツのシワを伸ばしてからハンガーにかけてよね」と言わない代わりに、こっそり修正しておいてくれたのです。

部下の行動を賞賛し、できない部分を後でこっそり修正しておく。よくできた上司のような人だな、と思いました。

でも、それだけでは行動の「質」はいつまでも向上しません。では、どのようにすれば良いでしょうか。

これはまだ学校の先生だった頃の話です。教室にはそこかしこに掲示板があります。そこに画鋲を使って掲示物を貼っていくわけですが、いつも率先して手伝ってくれる男の子がいました。ところが、なぜか掲示物を左から右に貼っていくに従って、だんだん上がっていってしまうのです。それで教室中の掲示物が右肩上がりです。

僕がそのことを指導すれば、彼は「掲示物を貼る」という行動をしなくなる可能性があります。せっかくお手伝いをしたのに、指導されるのでは面白くありません。

ここで考えたいのは「行動」と「質」を分けて考えるということです。行動したことは、褒めて感謝を伝えます。行動の「質」については、そのときには指導せず、別の機会に取り組みます。

ある日の放課後、彼と一緒に掲示物を貼ることにしました。彼は左から、僕は右から。スタートの高さを揃えて貼り始めたのですが、案の定、中央でぶつかったときには、僕のそれよりもずいぶん高い位置になっていました。

「あれ、おかしいなぁ」とつぶやき、右肩上がりになっていることに気づいた彼に「掲示板に点々が打ってあるのわかる?これに合わせて貼っていくとまっすぐ貼れるよ」と伝えました。それで彼は掲示物を貼り直しました。

それ以来、彼は「掲示」の名人になりました。

「叱る」という行動は、行動を減らすことにおいては有効ですが、これは何も「叱る」に限りません。例えば上司に意見を求められて意見を言ったときに、上司が不愉快な表情を見せたとします。おそらくは、上司の意見とは異なる意見だったのでしょう。

それでその部下は上司に対して正直な意見を述べることをしなくなりました。「好ましくない思い」をしないように、上司の考えを想定して「正解」を述べるようになったのです。

行動の「量」も「質」も叱ることでは向上しません。

「なんでこんな成績なんだ!」と叱ったところで、営業マンの営業成績は上がりませんし、児童生徒の学習成績も上がらないのです。

くればやし ひろあき

・株式会社ミナクル組織研究所 代表取締役

・フォロワー10万人の教育系TikTokクリエイター「くれちゃん先生」としても活躍中。人間関係や教育についての動画を配信

・1978年、愛知県生まれ。16年間公立中学校の教員として3,000人以上の子どもたちを指導。名古屋市内で最も荒れた中学校で生徒指導の責任者を務め、その後、文部科学省から上海に派遣され、当時世界最大の日本人学校であった上海日本人学校の生徒指導部長を務める。

・互いの「ものの見方や感じ方の違い」を理解し合うことで、他者に寛容な社会を実現したいと願うようになり、2017年独立。

・独立後は、教員時代の経験を活かし、全国の幼稚園や保育園、学校などで保護者向け講演や教職員研修を行う。2018年・2019年には、100人のボランティアスタッフを束ね『子育て万博』を主催。今年10月にパリコレクションのキッズ部門を日本に誘致して開催された『Japan Kids Fashion Week2021』において、全体計画及びキッズモデル・ボランティアスタッフ総勢150名のマネジメントを担当。

・2020年11月、「スタッフみんなが、明日も生き生きと来る!」を理念に、株式会社ミナクル組織研究所を設立。経営者、教職員、スポーツ指導者など、組織のトップや人を指導する立場の人たちから依頼を受け、人間関係づくりやチームづくりに関する講演や企業研修、教職員研修を行っている。経済産業省の事業再構築事業として人材分析システムを開発中。